基礎編④~認知症原因疾患:前頭葉機能障害・前頭側頭型認知症~
認知症原因疾患として次のような疾患があります。
- アルツハイマー病・アルツハイマー型認知症
- レビー小体病・レビー小体型認知症
- 前頭葉機能障害・前頭側頭型認知症
- 脳血管障害後遺症・血管性認知症
- 老化・加齢現象
前頭葉機能障害・前頭側頭型認知症
アルツハイマー病を想定している、いわゆる「認知症」とは全く異なり、様々な行動の障害によって日常生活に強い混乱をもたらすものです。その意味では定義上は認知症状態に当てはまるのですが、決して、いわゆる「認知症」ではありません。症状は全く異なり、その結果、治療も全く異なります。
⑴ 前頭側頭葉変性症
50~60才代で発症することが多い、脳の神経細胞が死んでいく病気の一つです。
前頭葉・側頭葉が、他の部位に比べて特に強く神経細胞が減っていき、脳が委縮していくのが特徴で、“ピック病”がその代表です。
前頭葉や側頭葉の中でもより強く委縮している場所が違ったり、前頭葉側頭葉以外の場所が同時に機能低下を起こしたりすることで症状が違い、別の病気になります。病気が違うとかなり違った経過をたどり、治療も違ってきますので、しっかりと診断してもらう必要があります。
総じてほぼ7~8年で死に至ると言われています
この病気で、いわゆる認知症状態を示すようになったものを「前頭側頭型認知症」と言いますが、いわゆる「認知症」と似たような状態になるのはかなり進行してからで、はじめは認知機能障害があまりはっきりせず、むしろ行動障害が目立ち、介護者や周囲を困らせます。
実はこの時期が一番大変な時期で、いわゆる「認知症」のようになるまで見逃されていると、介護者の最もつらい時期に何もしてあげないことになります。さらには「認知症」と診断されてアリセプトのような薬が出されると、症状がかえってひどくなり、介護者の苦痛が一層ひどくなります。
しっかりと診断してもらわないといけません。
前頭側頭葉変性症と前頭側頭型認知症、この区別は大変重要です。
記憶の問題があまり目立たないのに、怒りっぽさ、攻撃性というものがみられることで、この病気、特にピック病、と診断がなされる場合が少なくありません。実際、前頭側頭型認知症は怒りっぽく、攻撃的になる病気だと考えている医師も多く、家族や周囲に人々も、このような状態までになって初めて「認知症」と考えて受診することが少なくありません。それは、多くの医師や家族が、高齢で興奮状態や怒りっぽさがみられると、「認知症」と考えるからです。(40代の人だとそうは考えないと思うのですが‥)
前頭側頭葉変性症で、怒りっぽく、攻撃的な状態なっている時は、症状がこじれてしまったことを示しています。大半はすでに打つ手のない状態、すなわち、薬物療法で鎮静化させるしかない状態です(これこそが認知症の治療であると思っている人も多いのですが・・)。ですから、この病気の場合も、できるだけ早く正しい診断をして、症状がこじれないように治療をしていく必要があります。
<いくつかの代表的疾患>
- ピック病:身勝手、自己本位行動やこだわり行動が強く、代表的病気
- 嗜銀顆粒病:主に80歳以上の方にみられ、怒りっぽさや妄想などを示します。
- 緩徐進行性失語症:病気の初めから、話し言葉が崩れてきたり、
人の言うことが理解きなくなったりする言語障害があり、それが少しずつ悪化していきます。 - 皮質基底核変性症:左右の様々な前頭葉機能の低下の差異が強く、またパーキンソン症状が見られます。
- 意味性認知症:言葉や物の概念が理解できなくなります。
(2)脳血管障害や脳損傷(事故や手術後遺症など)による前頭葉機能障害
脳梗塞、脳出血、脳血流障害(多発微小梗塞や白質病変など)や脳損傷は、脳のどの場所で起こったかが重要になります。
これらの場所が前頭葉で、しかもかなり大きな範囲であると、前頭側頭変性症の色々な症状が急に一度に現れることになります。
それほど大きい損傷でない場合は、前頭葉のどのあたりなのか(例えば、右か、左か、上か、下か、前か、中か、外か・・)で症状がかなり異なります。
ですから、このような病気や障害がある場合は、必ず、障害場所を詳しく調べてもらい、その結果どのような機能低下があり、どのような症状起こしているのか、しっかりと診断してもらってください。
治療の仕方がかなり違ってきます。(まれに、脳のこの場所は働いていないから問題ないなどと説明する医師がいますが、脳の中で働いていない場所、なくてもよい場所などは決してないので、そのような場合には必ず他の医師の意見も聞くようにしてください)
(3)加齢に伴う性格の極端化
多くは、脳血流障害(多発微小梗塞や白質病変)による前頭葉機能低下によって元々の性格傾向(もちろん“困った性格”です。良い性格なら問題は起きませんので・・)が極端になってくることはよく見られるのですが、これといった脳の変化が見られないのに、起こることも時々あります。
もしかしたら、アルツハイマー病の高齢発症タイプがあるように、前頭側頭葉変性症の高齢タイプというのがあるのかもしれませんが、そういう考え方は主流となってはいません。
通常はそれほど激しい症状を示すことはありませんが、家族関係、地域住民との関係などで激しい症状となることもあります。
≪特徴的症状≫
●行動の異常
病気や原因によって程度の差がありますが、これが主症状になります。
自己本位で、周囲の状況や迷惑を省みない、身勝手な行動が多くなります。
病気の初めのほうであれば、周りが制止しても激しく怒ることはほとんどありませんが、ストレスの多い環境、長年続けてきた本人のこだわりの強い行動、元来の怒りっぽい性格傾向がある人、などでは激しく怒ることも見られます。
しかし、怒りっぽくなることがこの疾患の特徴というわけでは、決してありません。
可能ならば、友人、仲間、隣人などの助けを借りて(家族だけではかなり大変なので)、本人が続けてきた仕事や、趣味の活動などを続けていってもらうと、自分の行動欲求が満たされて、ある程度症状が改善します。しかし、病気になったばかりのころから取り組まないと効果はあまり期待できません。
●こだわり行動(常同行為とも考えられる)
上に述べた行動異常の一つですが、特徴がありますので区別しています。
周りの人が“なぜ?”と思うようなこだわり方で、同じ行動を繰り返します。周囲との関係からみて次の行動に切り替えるべき時でも、そうすることができず同じ行動を繰り返します。その意味ではこだわりではなく“常同行為“なのかもしれません。
背景には、とにかく何か行動をしたい、という欲求をコントロールできないからではないかと考えられます。
通常は、内容自体に強いこだわりは示さないので、いろいろな刺激を与えて行動欲求を満足させる意味で、周囲があまり困らないこだわり行動に変えていくと、比較的落ち着き、怒ることもあまりありません。
●徘徊
よく“徘徊”と言われているのは、アルツハイマー病などの認知機能障害による“道迷い”ですが、この病気で見られるのは、本当の意味での徘徊です。目的地がないのです。
確認行動、またはとにかく動き回りたいことが原因と思われ、目的地にたどり着くまでとにかく遠くまで行ってしまって迷子になる、ということはあまりなく、帰って来られることが多いです。
また、意識朦朧状態で不意に外出したり動き回ったりするのとも違います。しっかりと診断してもらい、対応を指導してもらってください。
●言語機能障害
自分の考えや言いたいことを言葉や文章にできない言語障害が見られます。アルツハイマー病とは逆ですが、アルツハイマー病の場合と同じように、言われていることが理解できないという言語障害を示すこともあります。
本人はかなり苛立っています(誰も、こうなったらそうなると思います)。かなり大変ですが、時間をかけ内容を類推して会話を継続するようにできれば、興奮したり怒りっぽくなったりはしないです。たとえうまくできなくとも周囲がそのように気を使ってくれていることは解りますので、よほど性格の難しい人か,環境がむずかしいのでなければ、ひどく感情的にはなりません。
かなりの努力が必要です。しっかりと診断してもらって、指導してもらい、どうしても無理なら別の対応を指導してもらうか、少量の薬の処方を考えてもらってください。
●無言無動に近い状態
前頭側頭葉変性症の場合はどの疾患も、進行すると、何も話そうとせず(無言)、自ら動こうとすることもほとんどなく(無動)なることが多く、介護上は少し楽になります。
しかし、自分がしたくなると突然自己本位な行動に出ることがあるので注意が必要になります。
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