基礎編④~認知症原因疾患:アルツハイマー病・アルツハイマー型認知症~

認知症原因疾患として次のような疾患があります。

  • アルツハイマー病・アルツハイマー型認知症
  • レビー小体病・レビー小体型認知症
  • 前頭葉機能障害・前頭側頭型認知症
  • 脳血管障害後遺症・血管性認知症
  • 老化・加齢現象


アルツハイマー病・アルツハイマー型認知症

通常、この国で"認知症"と言われている時は、この疾患のアルツハイマー型認知症のことを言っているようで、そのためアルツハイマー病=認知症と誤解されているようです。
何度も言いますが、認知症という病気はなく、認知症状態という生活のひどく混乱した状態をいうので、理屈から言えば、たとえアルツハイマー病になっても認知症状態にならないようにすることができるわけです。

①アルツハイマー病・・若年性アルツハイマー病ともいわれます。

  •  50~60才代前半で発症することが多く、比較的まれな病気です。
  •  いわゆる認知症の時期は初期の数年間です。
  •  それ以降は、耳は聞こえるのに何を言われているか理解できない聴覚性言語障害、自分で動かしたいようにうまく体を動かせない高次運動機能障害が主体となります。その後、身体全体の動きが硬く遅くなる錐体外路症状を経て、物を全く呑み込めなくなる仮性球麻痺状態に至り、死に至ります。
    物忘れがだんだんひどくなっていく…というだけの単純な病気ではありません。
  •  記憶が徐々になくなっていき、自分のことも家族のことも分からなくなり、最後には食べることも忘れてしまうなどという人もいますが、そんな病気を私は今まで見たことがありません。
    最後まで自分のことも家族のことも分かっているのに、言語機能障害でそれを言葉にできない、運動機能障害で表現することもできない。
    食器をうまく使えないから食べられない、食べたくても飲み込むことができない。だから、つらくて、苦しくて、怖くて・・それを「認知症」だからと決め付けられ、勝手な優しさを押し付けてこられるから、イライラして、そして最後は心を閉ざしてしまうのです。

    この病気の人を最初から最後まで見届けていけば、周辺症状だとか、BPSDだとか、寄り添うケアが大事・・だなんて決して単純には言えません。
  •  全経過は約10年で、働き盛りの人を襲う極めて深刻な病気です。介護者も若く、別れが来ることを受け入れることは、大変つらいうえに、お別れをした後の人生も考えないといけません。
  •  発症時に仕事に従事していたり、家庭の現役主婦であったりすることが通常なので、初期治療としては、できるだけ生活から引き離さず、可能な限り、それまでの生活を継続させることが重要になります。

②アルツハイマー型認知症―わが国でアルツハイマー病と言うとこれになります。

  •  60代後半から発症することが多いですが、現在の超高齢化社会では80代で発症することも多く見られます。
  •  60代後半や、70代で発症するアルツハイマー病もあります。この場合はアルツハイマー病と同様な経過をたどります。
  •  アルツハイマー病の初期の認知症状態がゆっくりと進行していくことが多く、アルツハイマー病のような言語機能障害や高次運動機能障害などがみられないまま終わることも少なくありません。本人と介護者のつらさもかなり違います。全経過が10年などということもほとんどありません。他の身体合併症で死を迎えることも多いです。
  •  初期の治療は、アルツハイマー病と同じように、できるだけ今までの生活から切り離さないようにしていくことですが、進行が遅く、他の脳機能低下に広がっていくこともほとんどありませんから、時間にゆとりがあります。治療の工夫もある意味、単純に済みます。
  •  高齢者が多いですから、身体合併症の治療が大切になります。身体状態が悪化すれば、脳の機能低下を強くなるからです。
  •  アルツハイマー病とアルツハイマー型認知症、この両者はかなり違う経過を示す疾患で、治療もかなり異なります。しっかりと区別して診断してもらうことが必要です。

≪特徴的症状≫

■初期

認知機能障害が中心となる時期

  • 昨日のことを思い出せない。冷蔵庫の中が同じものでいっぱい。(出来事記憶障害)
  • 今までできていた仕事・家事が途中で解らなくなったり、仕上げがいい加減になったり、どうやって始めるのか解らなくなって作業に取り掛かれなかったり、途中で他のことをやってしまったり・・など。(遂行機能障害)
  • 道に迷ってどこまでも行ってしまう。(視空間認知障害、道順記憶障害)
  • 新しい電化製品に変えたら全く使えなくなった。仕事やルールが変わったらどうして良いか解らなくなった。(手続き記憶障害)

■中期

言語機能障害、高次運動機能障害が中心となる時期

  •  明らかに耳は聞こえているのに、何を言われているのか理解できない。(聴覚性言語障害)
  •  言いたい言葉が出てこないし、文章にならない。(語想起困難、換語障害)
  •  わかっていても言われたとおりに体を動かせない。
  • すっと立てない。椅子などの座るべき場所に座れない。言われたところに向かって歩けない。
    頼まれた物を取れない。見たい方向に目を動かせない・・など。(随意性運動障害、高次運動障害、動作開始困難)

■後期

  体が動きにくくなる時期

  •  体の筋肉全体が硬くなり、指や手をなめらかに動かせず、歩幅が狭くゆっくりとしか歩けなくなる。(錐体外路運動障害)
  •  物を飲み込みにくくなる。むせる。(錐体外路性嚥下困難)

■末期

体が動かず、物がうまく呑み込めず、車椅子生活か寝たきりになる時期

  •  発語の消失。自発的運動消失。嚥下不能(仮性球麻痺)。