基礎編②~脳機能低下の原因・その診断~

1.体の状態(身体疾患)

特に高齢者で問題になります。
 ① 脳に酸素や栄養を与える体の機能が低下している。
 ② 痛み、頻尿、呼吸困難などで睡眠がとれない。
 ③ 脳の働きを保つためのホルモン分泌が悪くなっている。
 ④ 足腰に問題があって動けなくなり、脳への刺激が減ってしまう。
など、まずは患者さんの体に問題がないか調べる必要があります。

多くの場合は"もうろう状態""錯乱状態"(特に夜間錯乱)などを示すことが多いですが、原因が比較的軽いと"認知症状態"を示すこともあります。


2.脳の病気や損傷

① 脳炎、脳症などでは軽い意識の混濁で、仕事や家事のミス・混乱(遂行機能障害)、記銘力の低下などで認知症状態と間違われることがあります。

② 事故や脳術後の損傷によって、行動障害や行動異常を示すことが多いですが、記銘力・遂行機能の障害や失行などで認知症状態に似た状態を示すことがあります。

③ 脳腫瘍、慢性硬膜下血腫では部位によって行動異常や行動障害がみられ、それが認知症状態と間違えられることが良くあります。

④ 脳の変性疾患
脳の神経細胞が老化よりも早く減っていく病気で、数10種類あります。
ほとんどが 脳機能低下が進行していき、いずれかの時期に"認知症状態"や"行動障害状態"を示します。

この病気で認知症状態が問題になる代表が、アルツハイマー病、レビー小体病、前頭側頭葉変性症ですが、どれも常に認知症状態を示すとは限りません。
詳しいことは、後の「代表的原因疾患」のところを見てください。

大切なことはこのような病気のどれが原因になっているかをしっかり診断してもらうことです。なぜなら、病気が違えば症状が違い生活改善方法も違うからです。

⑤ 脳血管障害
・脳梗塞、脳出血
 梗塞や出血の結果として脳のどの部位が損傷され、その結果どういう脳機能低下が後遺症として発生したかが重要です。
ですから、脳のどの場所に梗塞や出血があって、その結果としてどんな機能低下が起こっているのかをしっかりと診断してもらう必要があります。リハビリで症状自体が改善することが少なくないからです。

・多発微小脳梗塞(俗にいう"隠れ脳梗塞")
高齢の方に良く見られます。非常に小さい脳梗塞で損傷が小さいため、かなり詳しい脳機能障害の診察をしないと後遺症が見つからないので、"隠れ脳梗塞"と言われています。
でも、症状がないのではなく、専門医以外では見つけにくいだけです。

この微小脳梗塞が多数できるようになると、その部位によっては明らかな脳機能低下が現れるようになり、認知機能障害、運動障害や行動障害が出現します。
いずれにしろ、脳血管障害のある部位や状態の重さなど正しく診断してもらうことが大切です。

・皮質下白質病変
これも高齢の方に多く見られるもので、脳の深部の小動脈の硬化によって血液の流れが悪くなり、脳の機能が低下するものです。これも場所や広がり具合で障害の重さはかなり異なり、場合によって認知機能の低下を起こします。
他の障害との違いを、しっかりと診断してもらうことが大切です。

少しずつ病変が広がる中で、徐々に脳機能が低下して、まるでアルツハイマー病やレビー小体病、前頭側頭葉変性症などの進行性の脳の変性疾患のように見え、間違われることが少なくありません。
治療方法が異なりますから、しっかりと区別して診断してもらうことが大切です。


3.いわゆる"心の病"

"いわゆる"という言葉を付けたのは、"心"というものが医学的にははっきり定義できていませんし、中にはこれらは脳の病気の一つであるという方もいるからです。

①うつ病、うつ状態
脳機能全般の活発さが失われ、認知機能の低下が見られて仕事や家事のミスが増え、特に高齢者では認知症状態と見なされるようになることが良くあります。

②妄想症
③幻覚症
この二つの症状は、若い人では認知症状態と間違われることは、まずありませんが、高齢者になるといわゆる「認知症の周辺症状」と診断されて間違った治療を受けることが多いです。

確かに高齢者では認知機能低下が元の原因になっていることがありますが、真の原因は強い不安、恐怖、日々の不満など心理的な問題であって、その気持ちの持っていき場がなく、性格的傾向も重なって、精神的バランスをとるためにこのような症状を出すと考えられます(少なくとも私は、そのように考えています)。 

「認知症の周辺症状」などと、決めつけて片づけずに、このような心の問題に向き合っていく必要があります。

薬をあまり使わずに色々な環境の工夫で改善することが多いのです。

このような"心の病"は、"認知症状態"と重なって現れることも多いので、症状の中で、どこまでが認知機能の問題でどこが心の問題なのか、しっかりと区別して診断してもらい、治療してもらうことが大切です。