基礎編①~認知症とは~

1.「認知症」という病気はありません。
認知症は、"認知症状態"という"脳機能の低下によって起こる生活の混乱した状態"のことを言います。「認知症」という病気があるわけではありません。


2.脳機能の低下は色々な原因で起こります。

以下のように分類して考えます。

 ① 体の不調・・脳も体の一部ですから、体の状態が悪くなれば脳の働きも悪くなります。

 ② 脳の病気・・脳梗塞、脳炎、脳症、脳の変性疾患(アルツハイマー病はこの中の一つ)

 ③ いわゆる"心の病気" ・・うつ、強い不安や恐怖による混乱と錯乱など。

 ④ 加齢・・年をとることによる脳機能の低下

年を取って心臓や肺の働きが落ち、体もうまく動かなくなり、いろいろな不安で眠れなくなって時々混乱したことを言ってしまう。
最近は、それだけで「認知症」という不治の病気と診断され偏見にさらされます。「認知症」だからと体の治療を放棄され、「認知症」にかかった人は周囲に迷惑ばかりかけて問題ばかり起こすから・・と棄老の言い訳にされたりします。
確かに、上の定義に従って、認知症状態だと診断してもよいです。でも、それは、原因を見極めて生活環境の改善方法を見つけ出し、認知症状態を直そうと"治療をする"ためであって、レッテルを張り、差別し、人生をあきらめさせ、周りの人達も何もしなくて良い、という言い訳に利用するためではありません。このことをどうぞ、よく理解してください。


3.脳機能低下によって起こる"生活の混乱した状態"

脳機能低下によって起こる"生活の混乱した状態"は、原因の違いによって色々なものがあります。以下にその典型的なものを挙げます。

『うつ状態』
  うつ状態による思考の混乱、作業能力低下のため、今までの生活ができなくなります。

『幻覚妄想状態』
  幻覚や妄想に影響されて混乱し、今までの生活ができなくなります。

『興奮状態』
  頻繁に起こる興奮状態のためトラブルが多発し、今までの生活ができなくなります。

 『もうろう状態』
  絶えずもうろうとしているためミスを多発し、今までの生活ができなくなります。

 『錯乱状態』
  言動がまとまりなく混乱しているため、一時的に今までの生活ができなくなります。

 『意識混濁状態』
  意識が混濁してミスやトラブルが多発し、今までの生活ができなくなります。

 『行動障害状態』
  社会的問題行動、自己本位で身勝手な行動など"行動の障害"が頻発して、今までの生活ができなくなります。認知機能は保たれていることが多いです。

 『認知症状態』
  上のどの状態でもない、生活の混乱した状態です。上のどの状態でもないことを明らかにする必要があります。

*これらの"状態"は、それぞれ原因が違います。ですから治療方法もそれぞれ違います。

いくつかの"状態"が重なって複雑な症状を生み出していることも少なくありません。ですから逆に、それぞれの状態をきちんと区別して、どのように重なっているかはっきりさせてから、治療をしていく必要があります。

*「認知症」という病気として、どれに対しても同じような治療方法で済ませていては、良い治療は望めません。

*認知症状態は"生活状態の混乱"のことをいうわけですから、生活状態を見ることのできない、MRI画像検査やXX式認知機能検査、脳機能低下の詳細な評価をしたとしても、"認知症状態"の診断はできません。

*認知症状態であるかどうかを診断するためには、家族、介護者、友人、仕事仲間などから詳しく生活の状態を、診断に必要な形で聞き出していく必要があります。

場合によっては生活状態のビデオ画像なども役に立ちます。そのように、正しく診断してもらう必要があります。

*生活状態がどのように混乱しているのか、なぜそうなっているのかを診断しなければ、どう治療したら良いか解りません。
家族や福祉スタッフに対して生活を改善させるための良いアドバイスもできません。"認知症"と漠然と決めつけて、独りよがりの治療薬や下記ごプランを立てると、患者さんは確実に心を閉ざしていきます。気を付けましょう。

*混乱した生活状態が症状ですから、治療は生活状態を改善することです。
単に"薬"を出すだけでは良い治療にはなりません。専門医は、生活改善自体を自ら行うことはできませんが、専門的な観点からの生活改善のための良いアドバイスをしてくれます。


4.つまり認知症とは

 ① 脳のいくつかの機能低下があって

 ② 生活がひどく混乱した状態であって

 ③ もうろう、錯乱、意識混濁など明白な意識状態の問題はなく

 ④ うつ、幻覚妄想、興奮などの精神症状が原因となっていないことがはっきりしている

そういう時の"生活の混乱した状態"を言います。

繰り返しますが、「認知症」という病気があるわけではありません。

また、いかに高齢者でも、例えば入院中に錯乱状態やもうろう状態になって混乱したり、独り暮らしの不安や恐怖、何らかの強い精神的ストレスによって、うつ、幻覚、妄想などで生活が混乱したような場合は、認知症状態と診断してはいけません。